そのひとには、三人のこどもがいた。しずかな愛のひとである兄、お喋りで彼女によく似た弟、やさしさの外側できもちが波うってしまう妹。
せっかちで、落ち着きがわるく、「じっとしてなよ」と都度言われていた彼女。
冬に遊びに行くと、外の段ボールの中からみかんを出して「食べな。」と言い、食べているとおせんべいを盛った皿を出しながら「こんなんしかないけどー」と言ってケケっと笑い、また台所へ。
兄弟はいつでもすこしあきれたように彼女にそう言った。
「もういいから。じっとしてなよ。」
そんな会話をよく聞いた。
聞き役の兄はそんなことはなかったけれど、弟と妹は彼女と喧嘩をした。歳を重ねても喧嘩をよくしていた。いっしょに暮らしていた妹とはとくに。口喧嘩の末、彼女は近所に住む長男の家に家出したりした。
それでもふりかえったとき、彼らに写る彼女はやさしい母、だった。
妹はちいさく、でもしっかり伝え涙を流す。「怒ってばかりいてごめんね。ありがとう。」
そして口下手な旦那がいた。家事には非協力的、頑固が故聞く耳を持たなかったりした。晩年別の部屋で過ごす時間も増えていた。
彼女の手をさする彼すべてから愛が伝わった。だれよりもなんどもタオルで目元をふき、あたまを抱えていた。
みているだろうか、彼女は。
三人のこどもは力を合わせて協力した。お互いを思い、父を思い、そして母を思いながら。
彼女は三人のこどもに恵まれ愛されつづけた。それは彼女の成し得たものであり、宝。
(わたしはなぜだか涙は出なかった。ごめんなさいとありがとう、それから言ってもらった言葉を思い返したりしていた。)
それぞれが彼女を見つめながらどんな思いを話し、どんな風景を思い浮かべていただろう。
彼女はどんなきもちでいるだろう。
おーい、聞こえているかな。
あなたを思っているよ。
彼らの声がどうか届きますように。
そしてあなたの声が彼らに届きますように。
夜ごはんの記録はなし。
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